nmn ちいさな本屋 かすかな光

nmn(ノマノ):野間久美子
インタビュー・文/小鳩ケンタ
写真/大岡由和
2019.12.27

interview-1

本は果てしないもの、難解なもの

——「本」について最初に聞きたいんですけど、松岡正剛さんって知ってますよね?(松岡正剛:編集者、著述家。並はずれた読書家で知られる。)

野間:はい。

—— どう思いますか?

野間:(笑)いきなり、、。

—— 無茶振りインタビュー始まりですよ。

野間:松岡正剛さんをはじめて知ったのは、中高一貫の学校で図書館の司書として働いていた時に、司書の先輩に教えてもらって知りました。

—— 松岡正剛さんの本を?

野間:いえ、存在自体を。その時に触れた本で、『17歳のための世界と日本の見方』というのがあって、中高生向きなのに、私には難しいところもあったんですけど、すごく面白かったんですよ。

—— 野間さんて、たまに話を聞くと「私は読書家じゃない」って言いますけど、やっぱり僕から見ると本は読んできた人に見えるんですね。まず「本」ってどういうものと思ってきましたか。

野間:本は、果てしないもの、難解なもの、そういうイメージがあって。時間をかけて作られたものであったり、ずっと残っていくもの。

—— ウェブみたいに、基本的に流されていくという前提で作られていないと。

野間:「確かに在るもの」なんだろうなと。

interview-2

本と花を贈り合う日に

—— 移動式であれ何であれ、本屋をやろうと思ったきっかけは何ですか? 世当たりも得意そうじゃないのに(笑)。人と触れ合わなきゃいけないし、自分の苦手なことを含んでる予感が最初からあったはずなんですけど。

野間:ありがたいことに、そういう機会をもらった感じです。

—— 誰からもらいました?

野間:『微花』(かすか)、植物の写真絵本をつくる2人から。

—— 今回(2020年2月に行う展示)のフライヤーのデザインをしてる方ですね。

野間:はい。

—— ちなみに、nmn は創業何年?

野間:nmn(ノマノ)っていう名前をはじめて付けたのは、2017年の4月に、微花のお2人にサンジョルディの日のイベントに「本屋で出しませんか?」って声をかけてもらってから。サンジョルディの日は、本とお花を贈り合う日なので。

interview-3

読書家はじまりではない

野間:2017年に、私は大学院に1年間行ってたんです。専攻は図書館情報学で。大学を卒業してすぐ大学院に行ったんですけど、1年でやめちゃって、 2017年に行ったときも結局1年でやめたのですが。2度行ってやっと分かるんですけど、結局、大学の時のゼミの先生がすごく好きだったんです。 すらっとしてバシッと新しい見解や指摘をくれる女性だったんですけど。その先生と出会わなかったら図書館情報学を学ぶこともなかっただろうし、 のちに本の活動をしたいと思わなかったと思うんです。

—— 現在の活動と図書館情報学はかなりつながっていると。

野間:すごくそう思います。

—— 図書館情報学というのがあるんですね、学問として。ざっくり言うとどういうものなんですか?

野間:私、説明がすごい下手なんですけど(ブツブツ)図書館って館種が色々あるんですけど、それぞれ役割が違うんです。 例えば学校の図書館だったら子どもの教育との関わりが重要で。読書をする場所でもあるけど、情報を提供する場所としての図書館。いちばん私が関心があったのはそこですね。

—— ふむふむ。

野間:私、大学の時にはじめて文献を検索してまとめることの魅力を感じて、もっと早くに知っていたらよかったなって思ったんです。 だから、子ども達にもいろんな情報を集めて整理し、そこから考察していく魅力を伝えていけたらいいなと。そういう図書館ができたらいいなって考えていました。

野間:読書家はじまりではないっていうのは、こういう流れがあったからです。

—— なるほどね。読書が好きで本屋に至ったんではなくてね、社会資源の提供みたいなのに興味があったということですね。

野間:そうかなと。

—— 野間さんのやってる活動の、清潔感みたいなのを感じるのはそういうところかも知れない。

野間:で、実際現場で働くんですけど、なんか違和感がずっとあったんです。見せ方とかもそうだし。そこを変えられるほど、自分には力が無かったんですけど。

—— そこの体力は無いよね。

野間:ねへへ(笑)。

野間:合わせて3年くらい働いたのかな、図書館では。

interview-4

nmn 企画の展示をする

—— ちなみに、(2月に開催するnmn企画のグループ展の)展示名は決まりました?

野間:迷ってるんですけど、、。これで本当にいいのかなという迷いです。

—— フライヤーのデザイナーさんには相談した?

野間:言ってない(笑)。

—— (笑)今日、12月27日ですよ。相変わらず予定が押している安定の野間さん。

—— タイトルは?

野間:タイトル、、「point」っていうんですけど。

—— お、意外。

野間:意外ですか? 最初にね、nmnのインスタグラムのアカウントを作った時に、紹介文みたいなのを書いたんです。 その中に「点」ていうテーマがあってね。私がよくやっていることに、本の中から一文を抜き出して提示するのがあるんですけど。

—— うん。

野間:その抜粋って、本の中の点じゃないですか。

—— イメージ上の点ね。

野間:その点がつながっていって、その人のなかでエッセンスになるみたいな。私が本屋としてやっているのって、そういうことかなと。

野間:日常で生きてても、本だけに限らず、なにか出来事が起こることがポツポツと自分の中であって、そこで自分の考えがつながっていくみたいな。 そういう意味合いの点となる場所として、nmnがあるかなあと。

—— 点となる場所ね。

野間:誰かにとっての点を作って、つながっていったらいいなと。

interview-5

長野まで会いにいくということ

—— 1週間前に、展示でお茶を提供してくれる方(普遍と静謐:長野県須坂市 茶葉販売店)に会うため長野に行かれたじゃないですか。 割と遠いし、時間も使うし、お金も使う。会いに行くって大変なことだと思うんです。行く作業を省いて展示をやることも出来たはずなんですけど。 社会モラル的に行ったんじゃなくて、野間さんの中から自然に出てきた選択に思うんですね。

野間:そうですね。本当にそうです。

—— その原動力になっているものは何ですか?そんなに元気じゃないはずなのに、むしろ寝込んでいるタイプなのに(笑)。

野間:それが出来る時はまだ生きてられるって思うんですけど(笑)。長野行きも微花からはじまる出会いもそうですけど、私のエネルギーになることって、 すごい何かが好きやなあってまず思うんです。行かなきゃいけないと思ったんですよね。

—— 自分がそれをしてる限りは元気だという「点」と、興味があった図書館という「点」が、野間さんの中で星座のように並んでnmnを形成してるような感じですか。

野間:その点同士を結びつける活動がnmnなんです。

—— なるほど、分かりやすい。

野間:だから本屋というのは違う気がしていて、でも別の言い方はまだ見つけられてはいない。

interview-6

その3冊、野間さんっぽい

—— 本のジャンルの中で、いちばん読んでるものは何ですか?

野間:創作のものが多いと思います。

—— へー。

野間:図書館で使われてる分類の話になっちゃうんですけど、日本十進分類法(NDC)っていうのがあるんです。 書かれたものの中身で分けられている。で、9類が文学なんですね。図書館にある本は9類の割合が多いんです。世の中にある本は、創作が多いってことだと思うんです。

—— どういう本を読んできたか、3冊くらいあげれます?

野間:すごい残ってる3冊は、三浦綾子の『塩狩峠』と、遠藤周作の『灯のうるむ頃』と

—— 来た、キリスト教、2回続けて。そういう清潔なオシャレ感をねえ、時々出す(笑)。

野間:わざとじゃないですよ(笑)、キリスト教の学校通っていたので、、

—— で、あと一冊は。

野間:『ノルウェイの森』(村上春樹)

—— 面白いねえ、その3冊。野間さんっぽい!

—— その中で、少し喋れそうなのってあります?例えば、遠藤周作。

野間:遠藤周作の本は、母親に勧められたんですよ。ほかの本は、例えば『沈黙』とか重いじゃないですか。 でもその本は読みやすく身近。遠藤周作のエッセイとか軽めじゃないですか。

—— 狐狸庵先生とかね。

野間:そうそう。で、その小説は、父親と息子の話だったんですけど何故か残っている。母親に勧められたからかなあ。

—— 3冊とも、お話ですね。

野間:そうですね。10代に読んだ本なので、いちばん強く残っていますね。全部自分で買った本ではなくて、 『塩狩峠』は課題図書だったし、遠藤周作も『ノルウェイの森』も家にあったんですよ。

—— 家にある本って、読みますよね。ひょっとして自分が大人になっていくのに必要な情報って家にある本から得ることが多いのかもしれない。まあ、音楽の歌詞とかはありますけど。

野間:そういえば音楽の歌詞を抜き出して、書いてましたね(笑)。

—— なんかの文を抜き出すのが好きなんですね。

野間:教科書とかに書いてました、めちゃ恥ずかしいんですけど。

—— 「抜き出し芸」なんですね(笑)。その欲求はどこから来るんですかね。

野間:分かりません。あ、でも(と部屋の中にあった若松英輔の本をめくり出す)この本に良い説明が書いてあった。

—— 読んで。

野間:「誰かの言葉であっても書き写すことによってそれらは、自らのコトバへと変じてゆくというのである。」(引用元:若松英輔『悲しみの秘儀』ナナロク社、p.146)

—— なるほど。そういえば、野間さんが抜き出した一文を読むと、野間さんの言葉に感じるもんね。

野間:でも、元を作った人がいるのに、とんでもないことをしてるんじゃないか?と思うこともあるんですよ。

—— 作者は不本意でしょうね(笑)。

野間:だから文を抜き出す本は、なるべく読み継がれてる本から選ぼうとは思っています。抜き出すことによって、本が違う目線で見えていったら面白いのかなと。

—— 野間さんが、その本をちゃんと触りましたっていうマーキングに見えるんですよね。そのタッチの圧が、とてもいい気がしてるんですよ。強すぎないタッチ。

—— で、歌詞の話に戻ると、例えば誰の歌詞を抜き出しました?

野間:浜崎あゆみとか(笑)。中学生とかなので、当時のJポップですね。

—— どういう子供でした?グレてました?

野間:グレてないですよ。

—— 今がいちばんグレている。

野間:うん(笑)。

野間:この間、展示の打ち合わせの時もですけど、大学入った時ぐらいからなのかな、自分があんなにイジられるとは思ってなかったんですよ。

—— すごいイジられっぷりですよね今。大人になるにつれ、どんどんイジられるようになったと。

野間:10代の頃は、出来る子だと思ってました。

—— 僕もそうだもん(笑)。一応優等生でさ、進学校で来たから。

野間:(笑)

interview-7

出来なくなりました

—— お父さんを亡くしておられますよね。

野間:はい。

—— 野間さんが何歳の時ですか?

野間:私が成人式の次の日かな、亡くなったのは。

—— そこから割と、環境も変わり?

野間:いえ、その前に環境は変わっていて、その半年前ぐらいの夏に両親は離婚しているので父とは同居していなかったんですよ。 で、私は父親と全然話してなかったんです。数年間。

—— うんうん。

野間:いずれ私が社会人とかになったら、きっちり話が出来るのかなって思ってたんですよね。 父は会社を経営してたので、働くということになったら話も出来るようになるのかなって。

—— 出来なかったわけですよね。

野間:出来なくなりましたね。

—— 出来なかったっていうことに対して、今思うことはありますか?

野間:これは本屋とは関係なくなってくるんですけど、、何をやっても最終的に出来なかったっていう結末になるように、自分でしてしまうところはあるかも知れない。

—— おお、重いこと言ってるね(笑)。

野間:(笑)

—— 精神医学的に言うと、問題を繰り返してしまう反復強迫という状態なのかな。

野間:何かで成功したということは、すごく少ないかも知れない。

—— 途中でプチっと切られることに慣れている人生に感じている。

野間:今んところ。

—— それをかき分けて、nmnは続いている。

野間:nmnは、仕事的なことでもないし。

—— 祝祭ですよね、自分の、生きる。

野間:なのかなあ、nmnっていうものに対しての、終わりみたいな所は見えない。

—— ほかのことはすぐ終わりを見ちゃいたくなるのにね。

野間:うん。

—— 終わりを設定してないと、落ち着かないというか。終わりが来ると、落ち着くというか。

野間:うん。

—— さっきから、めちゃくちゃ悪口になってますね(笑)。

野間:悪口というか、、症状(笑)。

interview-8

書いてる時はその言葉の中に行けるんですよ

—— 野間さんはね、ドラマの「カルテット」とかのセリフを、昔ラインで送ってくれてたじゃない。

野間:抜き出しましたね。映画を見ても抜き出しますし。

—— 抜き出し、集めたものは、コラージュみたいなものなんでしょうか。自分を生きやすくする為の、自分の周りに張る幕のコラージュみたいなものなんでしょうか。

野間:歌詞を抜き出してた頃の感覚なんですけど、書いてる時はその言葉の中に行けるんですよ。そういうことなのかな。

—— 言葉の中に行ける。そういうことでしょうね。言葉なんですね、まずは。

野間:言葉ですね。

—— 絵じゃないんだよ。

野間:あああ、そうですね。

—— 言葉の中に「行く」というのがとても大事なんだよ、きっと。

interview-9

何か、どこかの引っかかりに

—— 展示についてね、予定が押しに押してますけど、野間さんは本を選んだ時点でほぼ作業の手は離れるんだね。

野間:そうかもしれない。

—— あとは下々の者がそれをテーマにして作品を創作すると(笑)。

野間:(笑)

—— で、最後に出てきて、「どうもありがとう! nmn、ノマノ展でした!」って終わる。

野間:そう!私何してんのかなって、ほんまに。

—— 野間さんのキャラクターだから成立するんでしょうね。助けざるを得ない。

野間:こんなことやっていいんかな、ってすごい思いました。

—— いいんじゃないですか、みんな楽しくやってますし。

—— 野間さんが本屋を続けることは、お客さんにとってどういう意味があると思いますか?

野間:私の手で渡した本がその人の何か、どこかの引っかかりになればいいなと。本は待ってくれるものだと思うんですよ、腐らないじゃないですか。

interview-10

かすかな光

—— 明日死ぬとしたら、何か本を読みますか?

野間:えー、、人に会うと思います。

—— ああ、人に会う。

野間:読むかなあ、、。会わないかなあ、、。今、明日死ぬって言われたら、人と会わないかも知れない(笑)。本読むかも知れない。

—— 何の本読むか、思い浮かびます?

野間:あ、でも何もしないかも知れない。寝とくかも。

—— そうかなあ?!

野間:うーん。何か残すかなあ。何か残すかも知れないですね、書いて。

—— 何書くだろうかねえ。

野間:心境。

—— 愛する人に何かを伝えるため?

野間:そうかなあ、、でも誰かって特定の人に書くかは分かんないです。

—— 「私は」から始まる文ですか?

野間:かも知れない。今から言うことは重たいのかも知れないんですけど。

—— 何でもいい、来て。

野間:書こうと思った日があったんですよ、この2、3日の間に(笑)。

—— 出た(笑)。重たいね。遺書というやつですか?

野間:考えたんですよ、もしこのままいなくなったら、私が何を思っていたか誰にも分からないままいなくなってしまうと。 それは、生きてきて関わってくれた人がいるのに、何か失礼なのかなって。まあ、失礼って思う時点でね、死なないですよ。

—— 紙に書こうとした内容を言ってみて。

野間:お葬式はきっと、行われますよね。誰が来るかとか、どうやってみんな知るんかなと考えた時に。

—— 嫌だよー、snsで知るのとか(笑)。

野間:最後に会いたい人は本当は最後に会いたくない人なのかなとか。だんだん分からんくなってきたんですけど。

—— 紙の上に残そうとしたものを聞いてインタビューを終わるから言ってみ、書かないから。

野間:その時の心境かな、正直な気持ち。

—— 人名が入ったら伏字でいいから言ってみな。

野間:特定の人だけに向けてじゃない気もするんですよ。

—— いいよ、待つから。

野間:うーん、私は今まで何をしようと生きてきたんでしょうね。(長時間の沈黙)

—— (長時間の沈黙)

—— 長時間の沈黙で記事を終わるのもいいじゃん、暗黒の穴を開けて終わる。nmnっぽい。

野間:これ、記事を親に見せられへんなっていう(笑)。遺書書くとか言っちゃって。

—— そこは大丈夫じゃん、死のうとしたんじゃなくて、消える可能性を一度考慮したというだけだから。

野間:(笑)そうですね。

—— だって、僕だってあるよ、そんなのは。でもね、親に見せられないインタビューこそ大事なんだよね。

—— 琴線に触れるって、人の傷に触れることだから。

—— 紙の上に残す言葉、ひとことでも言ってくれると、このインタビュー終わるんだけどな。

野間:あ、そうか。えー、そこ、正直に言うと、無かった。

—— ええ?!

野間:中身、無かった。中身は、そこの時点では浮かんでなくって、お葬式の方を考えてました。

—— 分かった(笑)。これで、インタビューを終わります。

大岡(カメラマン):あのー、野間さんのその感じすごく分かります。自分も今日そんな感じ(笑)。

野間、小鳩:(笑)

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インタビュー後記:
取材を終えて思ったのは、最初に教えてくれた、「本は難解なもの、果てしないもの」というイメージは、野間さんの人生のイメージでもあるのかなということです。難解で果てしないからこそ、野間さんの点を打つ活動はnmnとしてつながれていく、その本はまだ描かれ続けていくのではないかと。

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